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介護の現実の中でー夫婦と親子の深い愛を見た
人生100年時代、多くの人々にとって介護問題は避けては通れないものだよね。
今回紹介する2作品はどちらもドキュメンタリー。
身につまされすぎて直視できない・・・という方もおられるだろうか。
個人的な話をすれば、実父母とも70代中盤で介護に至る前に亡くなり、義理の父母は一人は施設に入居し、一人は元気で義兄夫婦と同居中なので、現在介護に直面していない。
ただ、将来どうなるかは断言できず、自分には無縁の問題だとはとても言えない。作品の中で老父母の介護をしている「私」も「俺」もわたしとは同世代だ。今はまだエネルギーが残っていても、老々介護への道は刻一刻と近づいてくる。
俳優を使わずに、自分の親とその生々しい生活ぶりを包み隠さず公開したことに賛否両論あるようだが、その勇気に感心した。
「ぼけますから、よろしくお願いします」ー95歳の夫が妻を
何ともストレートなタイトル。作中で認知症の母親がつぶやく一言。
広島県呉市。この街で生まれ育った「私」(監督・信友直子)は、ドキュメンタリー制作に携わるテレビディレクター。
18歳で大学進学のために上京して以来、40年近く東京暮らしを続けている。結婚もせずに仕事に没頭する一人娘を、両親は遠くから静かに見守っている。
そんな「私」に45歳のとき、乳がんが見つかる。めそめそしてばかりの娘を、ユーモアたっぷりの愛情で支える母。母の助けで人生最大の危機を乗り越えた「私」は、父と母の記録を撮り始める。
だが、ファインダーを通し、「私」は少しづつ母の変化に気づき始めた。病気に直面し苦悩する母。95歳で初めてリンゴの皮をむく父。
仕事を捨て実家に帰る決心がつかず揺れる「私」に父は言う。「(介護は)わしがやる。あんたはあんたの仕事をせい」。そして「私」は、両親の記録を撮ることが自分の使命だと思い始め・・・。
正確に言えば、「私」は介護に従事しているわけではなく、ヘルパーさんたちの力を借りつつ、アルツハイマー型認知症の母親を95歳!の父親が面倒を見ている。人の手を借りたくない、という昔気質の父親だが、根気強く優しく妻に向き合う。
この父親が90代でありながら、辞書を引きつつ英語の文書を読む勉強を今なお続けている。家庭環境のためにあきらめたが、文学を極めたかったという夢を抱いていたという。そのために、一人娘の仕事にかける情熱を理解し、応援している。
「私」は45歳で乳がんにかかり、乳がんサバイバーとなるのだが、自分の体を動かすことさえままならなくなりつつある母親と父親が娘を励ます。映像の中だけでも分かるほど急速に老いていく父母を支える一方で、「私」もまた支えられているのかもしれない。誤解を恐れずに言うと、うらやましいとさえ思える。
料理や裁縫はプロ並みで、趣味の書道でも全国的な賞を得て名を成した、才能豊かだったお母さん。そんなキラキラと輝いていたときの姿が映し出されるたび、あたりまえのことだが、老いの残酷さを再認識させられる。
どんなに正しい暮らしをしていようが、どんなに真っ当に生きていようが、誰のもとにも、生きている限り、老いは訪れるのだ。人生は楽しいけど、辛いね。
最後に、この老夫婦が二人でゆっくりと道を歩いていく後ろ姿が映し出される。隣を歩いてくれる人がいる幸せをかみしめるように。
「和ちゃんとオレ」ー息子介護の難しさ
おかんの下半身を直視することになるとは...。
男女平等の社会とはいえ、「俺」の気持ちは何となく理解できるな。
「和ちゃんの中で、俺はもう息子じゃなくなったからなぁ」。10年間、自宅で母親を介護してきたフリーライターの野田明宏さん(57)。認知症の母を友達のように「和ちゃん」と呼ぶ。
生活は介護一色で仕事はできず、和ちゃんの年金に頼る毎日だ。
2013年3月、「息子介護」本の出版を目指して仕事を再開させた野田さんは、父親を介護する43歳の男性の取材を始めた。2年前に介護離職した男性は、妥協を許さない“最高の介護”を目指す。「父を預かってくれる施設もない。仕事なんてしていられない。1日でいいから休みたい」と、野田さんに訴えた。その取材中、一本の電話が…。
それは、野田さんの介護生活の終わりを告げる電話だった。
「俺みたいな人はこれから増える。俺たちは、介護“後”の人生をどう生きればいいのか。このままでは生活保護になってしまう」。
今の時代でも、働き盛りの年代の男性が、介護一色の暮らしを強いられることは、周りの人の目も気になるところだろう。「オレ」は、同年代の家庭を持つ男性との格差に焦り、悩み、その中で母親の介護を通じて、自分の生き方を見つめなおしていく。
少子高齢化、晩婚化、非婚化の流れの中で、息子が介護に際して果たすべき役割はますます大きくなっていくと思われる。作品の中では、介護疲れで母親に手をかけた男性も登場する。それまでの介護の状況を知っていた人々の署名活動などもあり、温情判決で執行猶予がついたという。
「俺」が本来持っている自由で明るい気質と、母親に対する深い愛情からか、壮絶な生活を描きつつも、暗さ一辺倒にはなっていない。どんな逆境の中でも、前向きに生きるための何かしら明るい光を見出そうとする姿が心を打つ。
10年間、親身な介護を続けた末、取材のために数日間だけ家を空けたときに、和ちゃんは預け先で急に息を引き取る。
人生って情け容赦ないな。
まとめ
現在、実姉が介護業界に関わる仕事についているので、その生々しい実態も含めて、介護問題について周りでももいろいろと耳にする。
実の親を施設に入れるわけでもなく、まさに捨ててしまう子供たちも増えているらしい。そこに至るまでには、どちらかを一方的に糾弾できない深い事情もあるのだろうが。
こうした中で、一生懸命に向き合って問題解決しようとしている「私」や「俺」、そしてそれを支える社会の人々の努力に目を向けるきっかけとして、このようなドキュメンタリー作品がもっと増えていくべきだと思わされた。
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