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「人間観察」が演技のストックに

連休は映画三昧。
改めて、樹木希林さんがたくさんの映画に出ていることを知った。
彼女に代わる女優さんはなかなか出てこないかもしれないね。

「日々是好日」-ゆっくりと流れる時間
真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。そんな典子(黒木華)は、いとこの美智子(多部未華子)とともに「ただものじゃない」と噂の武田先生(樹木希林)のもとで「お茶」を習うことになった。
細い路地の先にある瓦屋根の一軒家。武田先生は挨拶もほどほどに稽古を始めるが、意味も理由もわからない所作にただ戸惑うふたり。
「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っておいて、後から『心』が入るものなの」と武田先生は言うが--。
青春の機微、就職の挫折、そして大切な人との別れ。人生の居場所が見つからない典子だが、毎週お茶に通い続けることで、何かが変わっていった...。
この映画は、大学時代から「週刊朝日」で人気コラム「デキゴトロジー」の取材記者として活躍後、ルポライター、エッセイストとして活躍を続けている森下典子さんの同名小説が原作。お茶を習おうかと考えている人、お茶を習い始めた人、お茶を長年愛してきた人--お茶を取り巻く人々皆の心をとらえる名著だ。
心がささくれがちになる中、季節の花、お茶をたてる音、茶庭
多部未華子と黒木華という、これからの邦画を背負っていくと思う若手演技派女優の自然な演技もいいが、やはり先生を演じる樹木希林がすばらしい。まさにお茶の師匠、武田先生が乗り移ったかのようなたたずまいだ。日本特有の美しさを切り取った映像美も見どころ。
ちなみに、日日是好日(にちにちこれこうじつ)は、禅の言葉のひとつ。
表面上の文字通りには「毎日毎日が素晴らしい」という意味である。
そこから、毎日が良い日となるよう努めるべきだと述べているとする解釈や、さらに進んで、そもそも日々について良し悪しを考え一喜一憂することが誤りであり、常に今この時が大切なのだ、あるいは、あるがままを良しとして受け入れるのだ、と述べているなどとする解釈がなされている。
(Wikipediaより)
「万引き家族」-カンヌ受賞作は必見
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人が暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である祖母の初枝(樹木希林)の年金だ。それで足りないものは万引きでまかなっていた。
そんなある日、治と祥太は、近所の団地の廊下でふるえていた幼い少女ユリを見かねて家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。
ご存知のように、パルム・ドール賞や日本アカデミー賞ほか、数々の映画賞を総なめにした、是枝裕和監督作の中で最も有名な作品だ。
この作品は、親の死亡届を出さず、年金を不正受給していたある家族の事件をもとに、構想10年の末に完成したと言われている。10年温めている間に、この設定自体はさほどセンセーショナルなものではなくなってきたような気がする。
ディテールが描かれずに不自然だったり、エンディングがあいまいだったりという指摘もあるが、貧困や児童虐待やさまざまな現代社会の病理に対する問題提起が最大の目的なので、そこは仕方ない。したがって、物語としての面白味や完成度は、評価ほどではないようにも思う。
入れ歯を外し、髪をだらしなく伸ばした樹木希林のチャレンジャーぶりが、相変わらずすごい。武田先生の品のある老女から、このような下品な所作もごく自然に見せるところがさすがだ。
「歩いても歩いても」ー日常の一コマが愛おしい
夏の終わりに、横山良多(阿部寛)は妻(夏川結衣)と息子を連れて実家を訪れた。開業医だった父とそりのあわない良多は失業中のこともあり、ひさびさの帰郷も気が重い。
明るい姉(YOU)の一家も来て、横山家には久しぶりに笑い声が響く。得意料理を次々にこしらえる母(樹木希林)と、相変わらず家長としての威厳にこだわる父(原田芳雄)。
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ありふれた家族の風景だが、今日は15年前に亡くなった横山家の長男の命日だった。
こちらも同じく是枝監督の作品だが、個人的にはこちらの方がずっと好き。あの「結婚できない男」の名コンビ、阿部寛と夏川結衣の夫婦役を見ることができる。
何が起こるというわけでもなく、昔の普通の家族の日常がひたすら淡々と描かれる。でも、その裏で「生」と「死」をめぐるドラマが一貫して流れ、伏線としてエピソードが各所にちりばめられている。単調に見えて何とも深い作品なのだ。
樹木希林さんはある雑誌記事のインタビューで「歩いても歩いても」の裏話をこう語っていた。
是枝さんの「歩いても 歩いても」では茹でた枝豆に塩を振るシーンがあって、最初、食卓塩が用意されていた。
「すみませんけど、ちょっとした容れものに普通の粗塩を入れてくれません?」って美術さんに頼んで、塩をひゅっと取って、しゃしゃってまいたの。そのほうがおいしそうに見えるでしょう?
ザ・芸能人というのではなく、ごく普通のあたりまえの生活を送っていることが、このように作品にリアリティを加えている。いやもちろん、私たちとはかけ離れた生活を送っている華やかな存在も芸能界には必要なのだが。
彼女が自分の演技のストックとして大事に考えているのが「人間観察」なのだそうだ。真の女優はその生活すべてが仕事の一環なのかも。
「あん」-孫娘、内田伽羅との共演
「私たちはこの世を見るために、聞くために生まれてきた。...だとすれば、何かになれなくても、私たちには生きる意味があるのよ。」
縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。その店の常連である中学生の若菜(内田伽羅)。
ある日、その店の求人募集の貼り紙を見て、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どら焼きの粒あん作りを任せることに。
徳江の作った粒あんが評判になり店は繁盛するが、心無いうわさが彼らの運命を変えていく。
河瀨直美監督は同年代の女性で奈良出身。今も関西を拠点に活動を続けていることで、勝手に親近感を覚えている。ついでに紹介すると、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、奈良を舞台にした、同じく永瀬正敏主演の「光」も名作なのでおススメ。
「あん」は、樹木希林が孫(本木雅弘の娘)と初共演したことで話題になった。ハンセン病をテーマにした作品の中で、こちらもぜひ見ていただきたい一品。
季節を映す映像の美しさと、あんこの旨そうさ(笑)で、前半はほのぼのと楽しく見られるのだけれど、彼女が歩んできた人生の過酷さが分かってくるにつれて、次第に胸が痛くなってくる。病気に限らず、人々の差別と偏見は、長い月日が流れてもなかなか風化することはない。いろいろと考えさせられる作品だ。
ドリアン助川の原作もぜひ一読を。
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」ーオダギリジョー!
九州の小倉。変わり者のオトンはボクが小さいころから別居していて、15歳で家を出るまでボクはオカンと共に暮らしていた。
やがて故郷を離れボクは東京の美大に通い、オカンにあらゆる迷惑をかけ続けながら、ぐうたらな生活を続けていた。だが金も尽き、ついに仕事を始める。
やがてボクは食えるようになり、オカンを東京に呼び寄せる。オカンはボクの友達にも飯をふるまい、楽しい生活が始まった。ところが、オカンの体は癌におかされていたのだった。
こちらは言わずと知れた、リリー・フランキーが母親との半生をつづった自伝的小説で、本屋大賞を受賞し、200万部を超える大ベストセラーとなった同名小説が原作である。この小説がきっかけとなって、リリー・フランキーが一躍有名になったのを覚えている。
オトン役を小林薫、リリー役をオダギリジョーが演じるというだけで「絶対に見よう!」と当時思った映画。ちなみにドラマ版ではボクを速水もこみちが演じている。なんというキャスティング(笑)。
「東京」に暮らしたことのある「男性」の大多数は、この映画(小説も)ドはまりし、号泣の後に母親に電話したくなるだろう。しかしながら、どちらにも当てはまらない私は、そこまで共感できなかった。わたし自身は父も母も亡くしているのだけれど、自分自身の体験とはシンクロせず、残念ながらリアリティをあまり感じなかった。
ただ、リリー・フランキーという男性の才能の豊かさと感性が伝わってくることは確か。そして、オカンを演じた樹木希林の演技は文句のつけようがない。次第に、こんなにも息子に愛されるオカンがうらやましいという立ち位置に変わっていった。息子を持つ母親で未見の方はぜひ一度ごらんを。
まとめ

今回、樹木希林さんが、タイプの違う様々な女性を演じた映画を5本紹介させていただいた。
今もたくさんの人の心に深く残っている女優さんだ。
おススメ作品はまだまだ他にもあるけれど、今日は泣く泣くここまで。