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翻訳支援(CAT)ツール事情
CAT(翻訳支援)ツールや機械翻訳(MT)は全く使わないという翻訳者の方々も多くいると思われる。
翻訳対象文書の分野や種類に応じて導入度は様々だろう。私は、以下の記事でも触れたように、ほぼすべての案件でCATツールを使用している。ちなみに、私が請け負っている依頼の大半は特許関連文書(英日/日英)である。現在、直受け/エージェント経由の内訳としては、後者への移行を次第に進めつつある(こちらのテーマについては別記事で)。
契約書やビジネス関連(マーケティング/サイト記事など)の翻訳からもこの1年ほど離れているので、狭い個人的な観点からお話になるがご容赦あれ。
そもそもCATツールと機械翻訳(MT)の違いさえよく分からない・・・。
だから、CATツールの種類も実は分かってないし・・・
という翻訳者初心者さんも割と多いんじゃないかな?
今年になってますます業界の機械翻訳(MT)への流れが急速に進んできた。多拠点ライフへの準備に忙しく、浦島太郎状態の私の耳にも業界の変化のうわさが勝手に入ってくるくらいだから、そのスピードはすさまじいものだろうと想像する。
*機械翻訳(machine translation)とは、ある言語を別の自然言語に翻訳する変換を、コンピュータを利用して全て(ないし、可能な限り全て)自動的に行おうとするものである。
翻訳業界に限らずとも、周りの他の業界から聞こえてくる声からもAIの影響は大きい。クリエイティブな面が重視される芸術分野(デザイン、作曲、小説)などにもAIが活用されるシーンは増えていくだろう、それもまた興味深い。
さて、話がずれたが、今回は、MTについてはさておき、CATツールについて書いてみたい。
クラウド型とデスクトップ型
CATツールと言っても種類は大きく2つに分かれる。
- ローカルベース(デスクトップ型)
- クラウドベース(クラウド型)
現時点では、ローカルベースの代表がTrados(トラドス)、クラウドベースの代表がMemsource(メムソ―ス)と言えるだろうか。
「ローカルベース」のCATツールの場合、まずはソフトウェアを購入し(これが高い😿!ディスカウント時に買おうね)、自分のパソコンにインストールする。「翻訳メモリ」や「用語集」は、自分のPCに一から作成することができる。つまり、クライアントとのファイルの受け渡し以外のときは、自分の側だけで作業することができる。
「クラウドベース」のCATツールの場合、クラウドに保存されたファイル等にアクセスして作業を行うため、ネットに常時接続しておく必要がある。「翻訳メモリ」や「用語集」は一か所に集中している。*ただし、Memsoureなどではローカル環境でも使用可、後で説明。
このように、作業環境が主に異なっているわけだ。
クラウド型のメリット
業界のCATツール/MTへの流れを応援するものではないけれど、クラウドベースの翻訳環境が、分野によっても状況は異なるだろうが、メインになっていくのではないだろうか。
その理由として以下にメリットを挙げてみよう。逆に、メリットに見えることがデメリットとなるリスクもあり、翻訳会社と翻訳者とでは視点がしばしば異なってくる。ここではデメリットは割愛。
導入コストが低い
こちらが一番翻訳者にとって気になる部分かも。
ローカルベースの場合、先に述べたようにソフトウェアを購入する必要がある。セールなどを利用すれば10万円以下で入手可。けれども、その後、不定期にバージョンアップされるため、そのアップグレードの費用や、場合によってはテクニカルサポートの費用がそれにプラスされる。この追加費用が地味に痛い。
一方のクラウドベースでは、基本的には、毎月一定金額を支払ってアカウントを購入する(サブスクリプション型)。ただし、この金額はふつうは翻訳会社が支払い、登録翻訳者はエージェントからログイン権限をもらって無料で利用できるタイプが多い。よって、アップグレードなどの追加費用を翻訳者が負担することはない。
作業時の手間や労力が少ない
ローカルベースでは、翻訳者と翻訳会社とクライアントがそれぞれファイルを受け渡しし、自分の環境にコピーするという手間がかかる。
クラウドベースでは、3者とも同じプラットフォームにアクセスするため、そのような手間が発生しない。
実際に作業している中では、ファイルが破損していた、読めなかった、用語集が読み込めなかった、などのトラブルがほぼ起こらないので安心。
翻訳環境が整えやすい
ローカルベースでは、ファイルの形式や操作方法が煩雑で、それに慣れるまでの訓練の時間が必要だった。
対照的に、クラウドベースでは、比較的直観的に操作でき、シンプルな造りなので、初めてさわるときでもさほど混乱しない。また、ネット環境さえあれば、タブレットでもWINDOWS/MACでも変わりなく利用できる。
ノマドライフをさらに進めたいと思ってる私にとっては、翻訳環境がフレキシブルなことはけっこうありがたいんだよね。
Memsource型クラウド
上で少し述べたように、クラウドベースとはいっても、Memsourceのように、通常のエディタとウェブ上のエディタの両方が提供されるものもある。
つまり、Webブラウザ上に存在するエディタを使ってもよいし、ソフトウェアを自分のPCにダウンロードし、ローカル環境で翻訳してもよい。
私がMemsource案件を受ける場合は、ウェブエディタではなく、自分のPC内のエディタを使って作業することが多い。何となくスピードが速いような?
まとめ
CATツールの戦国時代、どれが覇権を握るのかな?(笑)
2017~2019年はTrados案件が圧倒的に多かった。でも、2019年後半からはMemsourceの依頼がグッと伸びてきた感覚だ。
CATツールの使用だけではなく、私が契約している海外のエージェントとは、ほぼすべてのやり取り(依頼受注の可否やファイルの受け渡し)がメールではなくポータルサイトで一括して行われている。インボイスなどの経理関係も一括管理されており、非常にわかりやすい。
利便さやセキュリティの面から、国内の翻訳会社はこのようなシステムに移行していくのではないだろうか。
なお、TradosやMemoQは、リアルでもオンラインでもしばしばセミナーを開催しているので、一度参加してみるとよいかと思う。You tubeでもウェビナーが公開されている。数万円の初期費用はかかるものの、おそらくは1回の依頼で回収できるので、現時点で迷っている方はTradosもしくはMemoQを購入し、早く習熟しておくことをお勧めする。