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様々な愛のカタチを知ろう
令和に入って、昭和世代とは恋愛観もずいぶん変わってしまったのかも。
でも、「恋」におぼれる心情は、いつの時代にも通じるような...。
今回は、わたしが大好きで何度も読み返して、こんな世界が 🙄 と憧れたり、共感したりしたおススメの恋愛小説をご紹介したい。無理やり5つに絞ったので、続編2も書きたい~。
平成時代のものはあえて選ばなかったので、もはや古典じゃん!古っ!と思われるかもしれない。50代のわたしが、今回を機に読み返してみて、やっぱり本当に面白い。ただ、当時とはまた違った感想が生まれてくるところを見ると、自分もアップデートしていっているのかな(笑)。
そして、はたしてハッピーエンドなのかバッドエンドなのかあいまいで、読む人にとって感想が全然変わってくるものを選んでみた。そもそも人が思う、人が感じる愛のカタチって様々なのだ。
もう1つ、これらの作品をお勧めする理由としては、何と言っても著者たちのハイレベルな「文章力」。心理表現の繊細さだけでなく、日本語の美しさを学ぶのにいい教材となりそうだ。
今の20代やアラサー女子はどんな感想を抱くのか聞いてみたいな。
宮本輝「錦繍」
私はあなたにまさにひと目惚れでした。
愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年を隔て再会した――。往復書簡がそれぞれの過去と思慕を炙り出す。恋愛小説の金字塔。
会って話したのでは伝えようもない心の傷。14通の手紙が、それを書き尽くした。
運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――(Amazon co jp)。
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」
有名なこの最初の一節から、宮本輝の世界に一気に引き込まれる。
上のあらすじで紹介されているように、ある衝撃的な事件をへて別れた夫婦が、蔵王のゴンドラの中で奇跡的に再開を果たす。物語の大半が、二人の間で交わされる手紙の形をとって語られるというのが、いかにもロマンチックなのだ。
二人の運命を象徴するかのようにドラマチックに全山を染めあげる烈しい赤が、文章から浮き上がってくるようようだ。
宮本輝の小説は旅情を誘うものが多いけど、「錦繍」はその代表だろう。わたしもついに数年前、東北を訪れて蔵王の紅葉を見ることができた! 😛
また、主人公の亜紀は、離婚後は神戸、香櫨園の実家に身を寄せる。土地勘があるので、閑静な阪神電車沿いの街並みが自然と浮かんでくる。
心が閉ざされてしまった中、亜紀はふと立ち寄った「モーツァルト」しか流さない喫茶店に通い始めるのだが、大阪でも京都でもなく、ここは神戸でなければしっくりこない。
他にも、舞台として、舞鶴や嵐山も登場する。本当に旅がしたくなるよ!
ちなみに、宮本輝は海外を舞台にした小説も旅心を刺激される。30代の頃、「朝の歓び」の世界に魅せられて、夫とのイタリア旅行でアマルフィまで足を延ばした。「朝の歓び」を読み返すたび、アマルフィ海岸沿い、ポジターノの街が頭に浮かんでくる。
立原正秋「残りの雪」
夫は、なぜ失踪したのか? 理由なき別れに苦しみ、無為不安の日をおくる里子は、40代の会社社長で、骨董の目利きでもある男、坂西と出会う。
妻子を捨てた夫と、年上の女との情事が日々うつろなものに変っていくのとは対照的に、二人の愛は古都鎌倉の四季の移ろいの中で、激しく美しく燃え上がった……。(Amazon co jp)
昭和48年!(1973年)日経新聞に連載されていた本書。
同じく日経に連載された渡辺淳一氏の「愛の流刑地」(通称、愛ルケ)も当時かなり話題になって、映画化/TVドラマ化されたが、「残りの雪」もオジサマ方の間で当時相当のブームになったことは想像に難くない。
半世紀前ともあって、50代のわたしですら、なんなのだ、この時代錯誤感は!と驚くエピソードが次々と登場する。
夫に捨てられた主人公、里子は、実家に戻った後、会社社長の坂西と不倫の恋にハマる。幼児を連れた出戻りなのだが、育児や日常の家事全般などにはスポットが当たらない。彼女は実家の圧倒的な財力のもと、暇つぶしのような仕事に週3回ほど出向き、「優雅」としか言えない日々を過ごしつつ、さらっと不倫相手の子を堕胎する。
骨董の目利きであり、「いびつな白磁」とたとえた和服の似合う雅な美女、里子を骨抜きにする40代会社社長の坂西、巨乳の年上美女と駆け落ちした後も、さまざまな女たちの間を流れ流れていく夫、この2人の男の恋愛模様が同時進行で語られていく。他の既婚男性たちも、なぜみんな愛人を持っているの?
まさに男にとっての「ファンタジー」そのものだ。
しかし、そんな微妙なアレコレをすっ飛ばしても、やっぱり面白い。四季の移ろう鎌倉や古都奈良の風景の描写は、「錦繍」と同じように旅心をかきたてる。そして、食事、骨董、寺、茶道、etc.立原正明の深くて広い知識と教養が、至るところにちりばめられている。
今の不倫(これも時代遅れになりつつあるけど)を、女性目線をリアルに描いているとすれば、やっぱり林真理子の「不機嫌な果実」だろうか 。
小池真理子「愛するということ」
人は人を愛する時、いつもどこかで本当の自分、飾り気のない自分をさらけ出してしまうのだろう。
相手に見せたい自分、こんなふうに見てもらいたいと願う自分は、実は常に、中身のない、実体のない、ただの脱け殻にすぎないのだ―。愛の始まりから失恋、絶望、再生までを描く小池文学の決定版。
(Amazon co jp)
小池真理子と言えば、何と言っても、女性の心理の闇を描き出した短編ホラーが秀逸なのだが、直木賞受賞作「恋」や「欲望」などの長編恋愛ものも読みごたえがある。
主人公のマヤのような環境で恋愛をした人は多分少数派。でも、マヤのように、深く愛した相手が去って行った後の喪失感に苦しむという経験をしたことがある人は多いだろう。文庫化され、いまだに増版が続いているのはその証拠だろう。
愛情のピークが過ぎ去った後、その苦しさやむなしさからどのように這いあがっていくかがテーマで、恋愛の絶頂を描くことが多い小池真理子作品としては異色の作品と言える。
ちなみに60年以上前に書かれた同名の名著、エーリッヒ・フロムの名著「愛するということ」も新訳が出ているので、興味があればぜひ。
曽野綾子「天上の青」
湘南の海近くの自宅にて庭の朝顔を手入れしていた雪子の前に車に乗った男性が現れ、朝顔の種を分けてほしいという。
冬になり、宇野富士男と名乗るその男性は再び現れて種を受け取るが、それ以降は雪子と付き合うようになる。しかし、富士男は女性と関係を持っては殺害し、遺体を埋める殺人魔であった。
富士男は殺人やレイプを繰り返す一方、そのたびに雪子のもとを訪れては優しく接する。やがて富士男は逮捕され、雪子も様々な形で事件を知らされることになる。裁判が始まり、雪子のとった行動は。(wikipedia)
これがいわゆる恋愛小説のジャンルに入るかは悩ましいところだけど、やっぱりテーマは「愛」としか言えないな。
曽野綾子の小説は、大半にキリスト教精神が組み込まれていて、もちろんこの「天上の青」の根幹にもキリスト教の人生観がある。わたし自身はキリスト教が結構身近にあるので、雪子の多くの言葉に共感を覚える。おそらくこれは、曽野綾子が書いた唯一の犯罪小説だ。
ただ、宗教観がどうあれ、罪とは何か、人を愛するとは何か、という人間が生きていくうえでの根源的な問いかけが突きつけられる。
雪子が育てていた「ヘブンリーブルー(天上の青)」という朝顔の花が二人を結びつける。このタイトルがいったい何を示唆しているのか、考えてみると本当に深い。
上下巻と長く読み応えのある小説だけど、ぜひ最後まで読み通し、ラストの衝撃 😯 を味わってほしい。
田辺聖子「女の日時計」
大阪の庶民の生活をこよなく愛している作者が、“長いとし月、日時計が刻をきざむように、くり返しくり返しの日のうちに、女は家の主婦になってゆく”と、古い造り酒屋の若奥さん沙美子を通して語りかける。
時として陰湿な女と女の関係までも作者の筆にかかるとからりと明るい。田辺文学独特のやさしさ、おかしさが漂う長編小説。(Amazon co jp)
田辺聖子は、わたしにとっては唯一無二の作家💛。
好きな作家の5本の指に入ることは間違いない。だから、どの作品をお勧めするかずいぶん迷った。王道でいけば、「言い寄る」、「私的生活」、「苺をつぶしながら」のどれかだろうけど、あえて「女の日時計」を選んでみた。
舞台は夙川。ドラマティックな筋立てや展開があるわけではない。平凡な毎日の中、主人公の沙美子は、ある青年と出会い、婚家や姑との窮屈な関係や、夫との行き違いから生まれた心の隙間に恋の予感が忍び込む。
ただ、よくある不倫ドラマのようにグズグズな展開にはならない。沙美子と、上に挙げた「残りの雪」の雪子とは、同じ若奥様でも全く違う。ネタバレしたくないのでここまで。
ほろりと切なくて、でも優しく、温かな気持ちになれる恋愛小説を書かせたら、田辺聖子は天下一品 😛 !
田辺聖子ファンの方で、未読でしたら是非!
まとめ
今回紹介した5作品は外れなし!
時代背景が古くて、今の時代にはそぐわないなと思うところもあるけれど、きっと20代や30代の若い世代にも面白く読んでいただけると思う。もちろん同世代の皆さまにも。
第2弾も書きたいな 😆 。