奥田亜希子さんは好きな作家の一人。
浅井リョウ氏も勧めてたけど、私も超おススメ。
彼女は、2013年に「左目に映る星」(「アナザープラネット」を改題)で第37回「すばる文学賞」を受賞している。
でも、わたしがまず読んでほしいのは、今回紹介する短編集の「五つ星をつけてよ」。
いつからか、レビューがなければ何も選べなくなってしまった――。離婚して実家に戻った恵美は、母の介護を頼んでいるホームヘルパー・依田の悪い噂を耳にする。細やかで明るい彼女を信頼していたが、やっぱり見る目がなかったのだろうか。十歳のときに買った浴衣、二十九歳で決めた結婚。母の意見に従わなかった決断は、どちらも失敗だった。今こそ母に依田をジャッジしてほしい。けれど母の記憶と認識は、日増しに衰えている。思い悩む恵美に、母が転んで怪我をしたと依田から連絡が入り……(表題作「五つ星をつけてよ」)。ネットのレビュー、LINE、ブログ、SNS。評価し、評価されながら生きる私たちの心を描き出す6編! (Amazon co.jpより)
<収録短編>
- キャンディ・イン・ポケット
- ジャムの果て
- 空に根ざして
- 五つ星をつけてよ
- ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ
- 君に落ちる彗星
「SNS疲れ」という言葉があるほどSNSに翻弄される現代では、この6編の中でタイトルにもなっている「五つ星をつけてよ」が気になって、この本を手に取った人も多いと思う。
この中で、自分でも意外にも一番心に刺さったのが、女子高生が主人公の「キャンディ・イン・ポケット」。気がついたら涙ぐんでる自分がいてびっくり。小説を読んでいて、よくできた話だと感心したり、自分の境遇とシンクロして共感したりすることはもちろんあるけれど、心の琴線に触れる小説に出会うことは少ない。
ネタばれになるのであらすじは省略するが、女子高生の時代があった多くの女性が多かれ少なかれ経験する感情とデキゴトが描かれる。大きな事件も、特に変わったエピソードも出てこない。しかしながら、小さな1つ1つのエピソードが伏線となって、最後の結末へとつながる。
そして、他の短編も、子供が独立した専業主婦、サラリーマン、介護中の女性など、年齢も性別もさまざまな人物が描かれている。酸いも甘いもかみ分けた熟年女性かと思いきや、奥田亜希子さんは1983年生まれのアラサーというのだから驚きだ。
ただ、彼女は、愛知大学の哲学科出身だという。平易な言葉で書かれていながら、答えが出ない不可思議な読後感を覚える話が多いのもふに落ちる。
あとがきで、彩瀬まるさんが、このように解説されていた。
奥田さんの文章では、登場人物の職業や立ち位置、属性よりも先に、名前がぽんと提示されることが多い。なんの情報もない個人として「実和」を登場させるよりも、「娘の実和」という風に関係性や属性を付け加えて登場させた方が、新しい人物を読者に印象付ける上で、楽といえば楽だ。
その通り、この手法が仕掛けとなると同時に、登場人物たちがどういう人物なのかは、実は最後まで明らかになっていかない。自分たちのすぐ近くにいる普通の人々の普通の日常を切り取っている。
面白くて、少し怖くて、でもなぜか優しい気持ちになれる。
末恐ろしい(笑)作家さんだよね~