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おかんおかん

「どもる体」が興味深くて、読みふけってしまった。

この「記憶する体」も新鮮だったな。

体の記憶とは何だろう

「体が記憶する」ってどういうことだろう。

今までの知識では、アスリートや音楽家などがトレーニングを積みながら自分の身体に教え込んでいくこと? また、日常的にも、日頃のルーティンをこなすうちに何となく身についていく体の癖みたいなもの?くらいにしか想像の幅が広がらなかった。

本書では、何らかの障害を負った12人の人、11のケースの体の記憶について、伊藤さんがインタビューを通じて得た知見を語っている。障碍者の中には、先天的な方もいれば、後天的な方も含まれている。

今までにあまり意識したことがなかった新たな視点だ。

誰もが自分だけの体のルールをもっている。階段の下り方、痛みとのつきあい方……。「その人のその体らしさ」は、どのようにして育まれるのか。経験と記憶は私たちをどう変えていくのだろう。

視覚障害、吃音、麻痺や幻肢痛、認知症などをもつ人の11のエピソードを手がかりに、体にやどる重層的な時間と知恵について考察する、ユニークな身体論。

障害を持っている方と関わっていると、「この人の体は一つなんだろうか」? と思うことがあります。物理的には一つなのに、実際には二つの体を使いこなしているように見えるのです。

(中途障害者の場合は)今生きているのは障害のある体だとしても、記憶としては、健常者だったときの経験の蓄積があります。「多重人格」ならぬ「多重身体」。記憶が生み出すハイブリッドな体です。(プロローグ) (Amazon co.jpより)


<目次>

  • エピソード1ーメモをとる全盲の女性
  • エピソード2ー封印された色
  • エピソード3ー器用が機能を補う
  • エピソード4ー痛くないけど痛い脚
  • エピソード5ー後天的な耳
  • エピソード6ー幻肢と義肢のあいだ
  • エピソード7ー 左手の記憶を持たない右手
  • エピソード8ー「通電」の懐かしさない右手
  • エピソード9ー分有される痛み
  • エピソード10ー吃音のフラッシュバック
  • エピソード11ー私を楽しみ直す

「多重人格」ならぬ「多重身体」

伊藤さんはこう言う。

本書の関心は、個々の障害そのものではなく、それぞれの体の固有性です。「△△という障害を持った体」ではなく「〇〇さんの体」としての迫力に迫ります。

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つまり、障害者をテーマにしているものの、読み進めるうちに、われわれ自身にも当然備わっている体の固有のパターンが、どのように形作られているのか、またどのように失われていくのかも、おぼろげながらにイメージできてくる。

しかし、異なるのは、障害者の場合は、健常者であったときの体の記憶が刻まれた中で、障害のある体と生きるという「ハイブリッド」な体が生まれる。「多重人格」ではなく「多重身体」。その記憶の物語がものすごく興味深い。

とはいえ、このケースの中に含まれる「認知症患者」に代表されるように、私たちもまた将来、ハイブリッドな体を持つ可能性がないわけではない。そのとき、自分はどうやって新しい体と直面すればいいのだろうか。

新技術の取り組み-3DプリンティングとVR

障害者の体の記憶として、われわれがイメージし易いのが、本書でも数章を通じて描かれている「幻肢」、「幻肢痛」だ。

幻肢痛(Phantom Pain)は、怪我や病気によって四肢を切断した患者の多くが体験する、難治性の疼痛。

四肢を切断した患者のあるはずもない手や足が痛みだす。例えば足を切断したにもかかわらず、爪先に痛みを感じるといった状態を指す。あるはずのない手の先端があるように感じる、すなわち幻肢の派生症状である。(Wikipediaより)

幻肢痛については、まだまだ研究が進められている段階で分からない部分もあるという。脳が動かせという指令を出し、過去の記憶により「動くだろう」と予測するが、「動きました」という現実の動作とリンクしない、そのズレが痛みの原因となっている説が主流なようだ。

そして、幻肢痛の緩和として取り組みが始まっているのがVRによる治療。

バーチャル・リアリティ(VR:virtual reality)とは、現物・実物(オリジナル)ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系。

VR体験中、バーチャルな手が自分の手だと錯覚でき、手を動かそうとすると、本当に手が動く。この実感により、Mさんは30年ぶりに無痛状態を経験した。

また、3Dプリンターの技術はまさに障害と相性が良い。3Dプリンタなら自分にピッタリ合ったほしいものを一から製造できる。

人によって身体はそれぞれ異なり、それに合わせて義手等を製造しようとすれば採算ベースに合わないことは当たり前だ。そうした問題が3Dプリンティングで大幅に改善できる。

まとめ

研究者向けではなく、一般読者向けに書かれているものなので、人によっては物足りないかと思われるかもしれない。

高齢化を迎えるこの社会では、衰えていく心と体とどう向き合っていくかを考える機会もますます増えていくだろう。その視点の1つを与えてくれる本でもあると思う。

おかんおかん

筆者のみずみずしい感性が伝わってくる本だった。

他のケースもみなそれぞれに思いがけない発見があって面白かったな。