アイデアの勝利ですね
今回ご紹介するのは、直木賞候補作となった呉勝浩さんの「スワン」。
実は、呉勝浩さんの著書を読むのは初めて。
「スワン」というタイトルから何となくロマンチックな話かと思ったら全く違うではないか(笑)。
SWANはこっちも!何度でも読み返せるバレエ漫画の最高傑作。
呉勝浩さんとは--
青森県生まれ。青森県立八戸高校~大阪芸術大学映像学科卒業。大阪府大阪市在住。
2015年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞、2018年『白い衝動』で第20回大藪晴彦賞を受賞。
その後、本作『スワン』が第162回直木賞候補に選ばれた。
銃撃テロを生き延びた五人。彼らは何を隠しているのか、何を恐れているのか
首都圏の巨大ショッピングモール「スワン」で起きたテロ事件。死者二十一名、重軽傷者十七名を出した前代未聞の悲劇の渦中で、犯人と接しながら、高校生のいずみは事件を生き延びた。
しかし、取り戻したはずの平穏な日々は、同じく事件に遭遇し、大けがをして入院中の同級生・小梢の告発によって乱される。
次に誰を殺すか、いずみが犯人に指名させられたこと。そしてそのことでいずみが生きながらえたという事実が、週刊誌に暴露されたのだ。被害者から一転、非難の的となったいずみ。
そんななか、彼女のもとに一通の招待状が届く。集まったのは、事件に巻き込まれ、生き残った五人の関係者。目的は事件の中の一つの「死」の真相を明らかにすること。
彼らが抱える秘密とは? そして隠された真実とは。
圧倒的な感動。10年代ミステリ最後の衝撃! (Amazon co jp.より)
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この作品の最大のインパクトは、巨大ショッピングモールでの連続殺人という舞台設定。
わたしの年齢では、無差別連続殺人と言えば、津山三十人殺しをモチーフにした横溝正史の「八墓村」がすぐに思い浮かぶ(古っ)。なにせ懐中電灯を頭に刺して走る殺人鬼の姿があまりに衝撃的だったのだ。
令和の時代では、連続殺人の犯人も3Dプリンティングを使用し、AI化が進んでいる。
ショッピングモールを舞台にした殺人は、海外の小説やドラマではなくはないが、本作ではショッピングモールの形状を事細かに描写している点が、わたしたちの想像をかきたてる。
中学時代、地元の友達とつるむときは「ららぽーと」、ちょっとおめかししたいときは「スワン」
という描写がある(イ●ンとは違うな)。ショッピングモールという身近な場所なので、スワンがどんなところか、イメージがわいてくる。そして、この建物の構造がトリックにもからんでくる。
大阪芸大映像学科卒という経歴どおり、読み進めると同時に、映像が自然と浮かび上がってくるところが、筆者の筆力かも。主要な役割を果たす女子高生二人を含め、出てくる人々もキャラが立っており、映画化されれば面白いものになることは確か。CGを多用した映像美を期待。
さらに新鮮なのが、この連続殺人のシーンが、単なる前置きに過ぎなかったというところ。
このシーンからころっと場面転換して、生存者たちのお茶会が延々と続く。
話の中心が主要登場人物のいずみが受けたイジメに移っていくのだ。
と、アイディアはなかなか。ところがAmazon等での口コミはやや辛め😢。
ちょっと残念な点も・・・
女子高生のいずみがバレエにかける情熱や、ライバルの女子高生とのバレエ対決のエピソードが盛り込まれていく。皆さまもご存知の「白鳥の湖」の白鳥と黒鳥のお話が、最後までメインテーマとして引っ張られる。だからタイトルもスワンなのだけど、スワンならやっぱり有吉京子先生の「SWAN」の印象が強いっ(笑)。
折角のトリックや設定が、どうもラノベっぽくなってしまっているのがもったいない。犯罪の被害者でありながらマスコミや周囲の攻撃に翻弄されてしまう非条理という社会的テーマを扱っているのに、リリカルな表現が今一つしっくり噛み合わないところが気になる。ただし、この雰囲気を高く評価している人もいるので、この辺は個人の趣味によるかな。
謎解きに至るまでがやや冗長。そして、どんでん返しとしてはいささか拍子抜けのラスト。よって、申し訳ないが、わたしもやや辛めの評価。
江戸川乱歩賞の「道徳の時間」、読んでみようかな。