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悩み続ける女たち

俗にいう自己啓発本や、生き方を指南するノウハウ本も読まないではないけれど、やっぱり小説が好き。小説は当然ながらフィクション。だけど、その中に描き出されることは荒唐無稽な物語ではなくリアル。だからこそ、わたしたちの心に響く。小説もマンガも映画も、生き方のヒントを与えてくれる。文章力も表現力も本職の作家は、一般的なライターよりはだんぜん上なので、一応本職の翻訳の役にも立つ。

今回紹介したいのは、同世代やそれ以上の女流作家たちの小説。ぜんぶ好きだったり、気になったりする作家なので、彼女たちの作品は読んでるつもり。作家という職業上、わたしよりももっと人生体験も、ものを見る目も、まわりにいる人々も、ずっとずっと幅広く深い。彼女たちの作品は、娯楽の楽しみを与えてくれるとともに、視点を広げてくれる。

特にアラフォー、アラフィフの主婦・既婚女性にとって興味深いテーマを扱ったものを選んでみた。きらびやかなキャリアや、ジェットコースターばりの劇的な人生を送っているわけではなく、普通の女性たちの物語。

魂萌え

ささやかな<日常>に、豊饒な世界を描き出した、再生と希望の物語。
夫婦ふたりで平穏な生活を送っていた関口敏子、59歳。63歳の夫・隆之が心臓麻痺で急死し、その人生は一変した。8年ぶりにあらわれ強引に同居を迫る長男・彰之。長女・美保を巻き込み持ちあがる相続問題。しかし、なによりも敏子の心を乱し、惑わせるのは、夫の遺した衝撃的な「秘密」だった。

「OUT」や「グロテスク」が代表的で、事件や犯罪を扱った社会派の印象が強い桐野夏生だけど、こうしたごく一般的な人々の日常に起こる出来事にひそむ落とし穴を描かせても上手い。

わたしの世代だと少し年上の方と結婚した人は、60代が近づいてくる。定年前に急死する男性って意外と多い。それにともなって、この小説に書かれているような事件が起こることは、「衝撃的」というよりも想像できる範囲。まさかと思いつつ、ありそうな話。

そして、相続に絡んで、娘や息子がとる行動がこれまたリアル。実生活でも、人が亡くなるとドラマが動き始める。ほとんどの人が避けては通れない道なのだ。

下流の宴

東京の中流家庭の主婦として誇りを持つ由美子。高校中退の息子がフリーター娘・珠緒と結婚宣言をしたことで「うちが下流に落ちてしまう」と恐怖を覚え、断固阻止を決意する。一方馬鹿にされた珠緒は「私が医者になります」と受験勉強を開始して―切実な女の闘いと格差社会を描いた傑作ベストセラー小説。

林真理子はやっぱり「旬」を切り取るのがうまい。「不機嫌な果実」は「昼顔」ブームのずっと前に主婦の不倫願望のようなものを世間にさらけ出した。これは作品紹介にもあるように、ごく中流、もしくは上流に近い中流の家庭が下流に落ちていく「格差社会」の不安と焦りを林真理子らしくイヤラシく(笑)描き出している。

NHKでもドラマ化されて、由美子の役を黒木瞳が演じた。この役はある意味、黒木瞳の女優の転機となった役柄だと思う。一世代前は奇跡の美魔女だったキレイな奥様像から脱皮して、現在放映中の「就活家族」の先生役のように様々な女性を演じるようになった。ぴったりの人選だと納得。

だから荒野

46歳の誕生日、夫と2人の息子と暮らす主婦・朋美は、自分を軽んじる、身勝手な家族と決別。夫の愛車で高速道路をひた走る。家出した妻より、車とゴルフバッグが気になる夫をよそに、朋美はかつてない解放感を味わうが…。家族という荒野を生きる孤独と希望を描いて、新聞連載時大反響を呼んだ話題作の文庫化。

桐野夏生からもう1作。こちらも鈴木京香が主人公を演じてドラマ化された。ドラマもものすごく良くできているので、興味があれば是非見てほしい。

「荒野」という言葉から、さびしい荒涼としたイメージを受けるかもしれないけど、ドラマも小説も同じように広々と視界が広がる爽やかさを示唆している。ディープなテーマを扱っていても、ジメジメしたところのない明るい空気感がただようところが桐野氏の小説の特徴かも。わたしはそこが大好き。

虚構の家

大学受験の息子を持つ母、駆け落ちをする高校生の娘、過度に潔癖な息子、これらの親子関係の中でいったい誰が健全な精神を所持しているのだろう。親子の人間関係とは一体何であるのか。一見豊かで幸福そうな家庭も内実は"虚構の家"であった。断絶のうちに崩壊してゆく家族を描いて、現代の孤独を示す問題作。

いつの時代の話よ?!ときっと思われたはず。好き嫌いがはっきり分かれる曾野綾子氏だけど、わたしは彼女の小説にこれまで大きな影響を受けてきた。作家はそうあるべきだと思うとおり、彼女の物や人の見方はステレオタイプでない。いわゆる「善人」と「悪人」との境目があいまいで、ときには逆転する。幸せの定義が常にひっくり返される。

「虚構の家」は約40年前の小説。でも、言ってしまえば切り口が違うだけで「下流の宴」と伝えている内容は大きく変わらない。

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」

と「アンナカレーニナ」の中でトルストイは言った。でも、似通った不幸な家庭もいっぱいあるんだよね、と思う。

求婚旅行

「夫婦って、たえず、あたらしくプロポーズしつづける旅とちがいますか?」流行作家となった晶子は、夫婦の危機に直面し、それを乗り越える度に、そのことを感じる。夫婦とは長い一生、互いにくり重ねていく求婚の旅だった。そうでなければ新しい発見のない惰性の生活になってしまう。男女の愛のあり方を描いた長編完結編。

最後は、ともかく大好きな田辺聖子。オススメする作品を選ぶのが大変だったが、この「求婚旅行」は特別に好きな小説。

「夫婦って、たえず、あたらしくプロポーズしつづける旅とちがいますか?」

スイーツ(笑)すぎる言葉だけど50代になって、この言葉の意味が本当に分かってきた。田辺聖子の偉大さが分かるわたしのバイブル。

 

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井上荒野、山本文緒、姫野カオルコetc.etc、好きな女流作家や若手の注目作家もまだまだいる。ブックレビュー、追加していきたい。